新たな生活者意識を探るPART5
2022年現在日本では、“ジェンダー”という言葉が多くの方に、広く認知されている状況になっています。更に、ジェンダーフリーやジェンダーレスといった“ジェンダーがつく”表現も増えてきました。これは、多くの人々が「ジェンダー」に興味を示す時代になってきているといえるのではないでしょうか。
人々がジェンダーへ興味を持つ状況を踏まえ、我々は商品の持つジェンダーイメージに注目しました。
多くの店では男性向け・女性向けに売り場が分かれ、また商品のキャッチコピーも男性向け・女性向けになっているものがありますが、このようなアプローチは結果的にジェンダーイメージをつけるものと言えます。今回はジェンダーのイメージを超えて、生活者が消費行動を起こすことを「ビヨンドジェンダー消費」と定義し消費の実態を見ていきたいと思います。
「ビヨンドジェンダー消費」は、CCCマーケティング総合研究所が2022年6月に実施し、16歳~69歳の方を対象に1,620人より回答を得た商品に関する意識調査の内容よりお送りします。
※本コラムは商品に対する性別の意識や利用状況、商品に対するご意見を頂戴し、調査結果を公表することで、今の生活者の思いを理解いただくことを目的としています。
商品の持つジェンダーイメージは、流動的
もともと、商品にあるジェンダーイメージは時代と共に移り変わるということを、まずは認識しておくことが大切かもしれません。例えば、セーラー服。女性の学生服として着用するものと認識されている方も多いかもしれませんが、もともとのルーツは1800年代にイギリスの海軍の制服として採用されたものが原型です。
当時は、男性が主に着用していたであろうと推測されます。このように、時代によって商品の持つジェンダーイメージは変化するものであるということを私たちは覚えておく必要があるかもしれません。
ビヨンドジェンダー消費は、消費拡大のファクター
続いて、「ビヨンドジェンダー消費」と混同されやすいいくつかの事象を整理しながら、確認していきたいと思います。
1つめは「誰でも使える商品」つまり、一般的に言われている「ユニセックス商品」や「ジェンダーレス商品」です。これらは、提供する側の「すべてのジェンダーに購入してもらいたい」という意図を生活者が受け入れている事になるため、「ジェンダーイメージを持たない商品」と言えます。
2つめは、「今までは特定のジェンダー向けにのみ販売していた商品を、新たなジェンダー向けに商品開発し、新たな売り場で提供する」ことです。この場合は提供する側が、新たな市場を創造できると判断しビヨンドジェンダー戦略を仕掛けている状況と言えそうです。
昨今の事例では、男性向け化粧品売り場の展開があります。この事象は、提供する側の意思としてのジェンダーイメージに該当するでしょう。
3つめは、売り場や商品自体が、男性向け、女性向けと特定のジェンダー向けに販売されている状況において、生活者が自身の身体的性とは異なる商品を購入する事象です。
例えば、女性向け洋服を男性が購入する(もちろん逆の事象も該当します)という事象が該当します。
今回は、この3つめの性別をまたぐ購買を「ビヨンドジェンダー消費」として見ていきたいと思います。
【図1】
ビヨンドジェンダー消費の経験は、女性が男性を10ポイント以上リード
2021年に発表した新たな生活者意識を探るPART2では、特に購入した商品を特定せずにビヨンドジェンダー消費について調査しました。ビヨンドジェンダー消費の実績がある人が58%、「また積極的に購入したい」「よいものがあったら購入したい」という購入意向を問う質問には65%の方が購入意向ありと回答しました。
今回は、性・年代別に、指定商品(※1)を特定した上で回答いただいています。図2を見ると全体のビヨンドジェンダー消費経験ありが41%となっており、前年の58%と比較すると17ポイントほど低い数値です。今回の指定商品以外の購入がこの差分であると言えそうです。
男女で比較すると、女性のビヨンドジェンダー消費の経験が48%で、男性と比較して13ポイント高くなっています。女性が、よりビヨンドジェンダー消費を行っていて市場の転換を牽引していることが伺えます。
【図2】
ビヨンドジェンダー消費を強く牽引する若年層
続いて、女性・年代別にビヨンドジェンダー消費の経験を確認すると、10代20代の若年層ほど経験値が高いことが分かります。そして、30代で49.4%、40代でも46.3%となり、女性全体では約半数がビヨンドジェンダー消費を既に経験しているようです。
【図3】
価値観変容は、日常の無意識から影響を受ける
CCCマーケティング総研では、定量調査と共に定性調査も実施しています。今回、子どもをもつ親世代からは、「子どもの購入したい商品が、自分の価値観とは異なるケースがある」という声がよく出てきました。そして、親世代の価値観が子どもと異なっていても、子どもの価値観を尊重している様子が伺えました。
では、若年層の価値観の変化は、どのようなものに影響をうけているのでしょうか。事象のひとつを取り上げていきたいと思います。昨今の携帯電話には、カメラで撮影した自分の顔をより綺麗に見せる加工機能が搭載されています。ほかにも、変顔アプリや写真加工アプリが多種多様に展開され、これらはアプリ上で、肌の色や、目や鼻、唇などのパーツを加工したり、性別を変換したり、また体重の増減加工などもすることが可能なアプリが出回っています。
このような“バーチャルな遊び”から、より見栄えがいい自身の変容を無意識のうちに受け入れ、意識の壁を壊し、なりたい自分を見つけている人たちも一定数存在しているように思います。
実際に、化粧をする男性のインタビューでは「写真アプリでは盛るのに、リアルでは盛っていなかった。いつも写真アプリと同じように盛った状態をリアルでも保つために化粧をするようになりました」という意見がありました。
これは、“バーチャルな遊びから価値観の変容が発生し、リアルの消費に繋がっている”と言ってもよさそうです。そして、その影響はバーチャルを利用する人々全体に少なからず及び、同時並行で家庭内では、先述の通り子どもから親世代へ価値観の変容認識が伝播しているのではないでしょうか。
もともと、商品自体にジェンダーイメージを持つものは限定的であり、売り手が意図的に作り出していることが多いのが現状です。また、セーラー服のように時代によって商品のもつジェンダーイメージは時流とともに変化するものでもあります。社会的背景が作り出す新しい消費としてビヨンドジェンダー消費を捉えていくことは、売り手のビジネスチャンス拡大になるかもしれません。
(※1)指定商品は以下の通り
アパレル(外出着)/アパレル(家中着)/アクセサリー・ジュエリー/靴/バッグ・リュック/お財布・小物入れ・ハンカチ/化粧水・乳液/メイクアップ商品/日焼け止め/整髪料・ヘアクリーム・ヘアワックス/ボディシート・制汗剤/香水・フレグランス/ネイルケア用品/除毛用品・除毛剤/美容機器(美顔器・美顔スチーマー・ヘッドマッサージ器など)
調査地域:全国
調査対象者:男女16~69歳のT会員
有効回答数:1,630サンプル(事前調査3,936サンプル)
調査期間:2022年6月28日(火)~2022年7月1日(金)
質問数:全18問
<質問項目>
・自身で利用するための、異性向けの商品やサービスの購入実績・回数・購入時期
・最近1年間の異性向けの商品やサービスの購入点数
・異性向けの商品やサービスの購入後の購入意欲・購入点数の変化
・異性向けの商品やサービスの購入のきっかけ
・初めて異性向け商品を購入した場所・方法
・異性向けの商品やサービスの購入2回目以降の購入場所・方法
・異性向け商品購入後の行動、購入前の経験
・商品購入時のこだわり 等
<属性項目>性別、年代、居住都道府県
【集計内容】
・性年代別クロス集計
【注意事項】
・集計は日本の性年代人口構成比に合わせて調整しています。
・集計対象数が極端に少なくなる質問は出力していません。
・集計対象者の1,630サンプルは、(※1)指定商品購入経験者です。
【商品名/番号】
品名:商品に関する意識調査(2022年6月)
番号:22-014-002
【価格】
集計一式:36,000円(税別)
【お問合せ先】
CCCマーケティング総合研究所
担当:杉浦・斎藤
cccmk-souken@ccc.co.jp
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