高い認知率を誇る国内の主要な祭り
新型コロナウイルス感染症拡大によって、日本各地の祭りは中止に追い込まれてきました。20年には日本三大祭りの一つでユネスコの無形文化遺産にも登録されている京都の「祇園祭」(京都府京都市)の山鉾(やまほこ)行事が中止となりました。また、感染者数が比較的少なかった東北地方でも東北三大祭りの「青森ねぶた祭」(青森県青森市)、「仙台七夕まつり」(宮城県仙台市)、「秋田竿灯まつり」(秋田県秋田市)が中止となり、各地で祭りの中止・規模の縮小が相次ぎました。今年に入って新型コロナウイルス感染者数は減少傾向を示し、ゴールデンウイークには全国の流動が回復してきましたが、2年続けて中止や変則開催に追い込まれていた祭りも開催の動きに転じてきています。今回は国内の主要な祭りの認知・参加意向について、全国の20~60代の男女8,739人の方にアンケートを実施しました。
域外交流の起点からインバウンド集客の起点へ
日本国内の祭りは、『日本の祭り文化事典』(東京書籍刊)によると、その数は約1,200にも上ります。さらに地域の小さな祭礼なども含めると一説には30万近くにもなると言われ、祭りは生活の中で脈々と受け継がれてきたイベントであると言えます。日本の祭りは農耕儀礼的なものや御霊信仰的なものが多く、地域の風土や風習などを踏まえ、発展を遂げて今日まで受け継がれてきました。
祭りは地域の結びつきを強めるイベントとしての性格もありますが、地域固有の文化を体験できる場として、域外の人たちにとっても魅力的なものとなっています。地域の観光交流の起点として祭りは大きな役割を果たしてきましたが、コロナ禍前は、日本文化を体験できる場としてインバウンド客にも人気となり、地方都市の交流人口拡大に大きく寄与してきました。訪日外国人メディア「ジャパンガイド」でも各地の祭りは人気を集め、「さっぽろ雪まつり」、「祇園祭」は常に上位のアクセス数を誇っていました。国内客だけでなくインバウンド客の誘客にもつながっていたため、コロナショックは地方都市に大きな影響を及ぼす結果となっています。
コロナショック前は100万人を超える参加人員となる祭りは国内各地にあり、国内最大規模となる「博多祇園山笠」(福岡県福岡市)には期間中300万人もの人が押し寄せていました。ほかにも「青森ねぶた祭」、「さっぽろ雪まつり」、「仙台七夕まつり」、「日本ど真ん中祭り」(愛知県名古屋市)など、200万人以上の参加人員を集め、地域経済に大きなプラス要素となっている祭りもたくさんあります。今回の調査では、こうした大規模な集客で知られる全国の祭りを抽出し、アンケートを実施しました。
その認知をみていくと図1のような結果となりました。全体のトップは「青森ねぶた祭」の75.3%で、「さっぽろ雪まつり」、「阿波おどり」、「祇園祭」が続きました。それぞれ祭りの開催時期になるとツアーが催行されたり、市内の宿泊施設の予約が困難になったり、地域の観光集客に大きな役割を果たしています。今回調査した18の祭りのうち、5割以上の方に認知されている祭りは7つありましたが、最も認知の低いものでも10%以上の認知となっており、地域観光資源としての祭りは地域経済にとって重要な位置を占めるものであることがわかります。
【図1 国内の主要な祭りの認知率】(N=8,739、MA、数値は%)
次に祭りの鑑賞経験についてみたものが以下の図2です。認知は18の祭りについて、全く知らないという回答が約10%にとどまったのに対し、鑑賞経験は5割近くが「未経験」にとどまっています。地理的に遠い、祭りのタイミングに合わせて行くことが難しいなどが鑑賞経験の障壁になっていることが推察されます。
3つの祭りが2ケタを超える鑑賞経験
鑑賞経験の回答が最も多かったのが「さっぽろ雪まつり」で16.5%の方が鑑賞経験ありと回答しました。「さっぽろ雪まつり」は認知でも高い順位となっていますが、認知、鑑賞経験の上位5つを比較すると、「仙台七夕まつり」、「天神祭」が認知より鑑賞経験の方が上位にくる結果となっています。
【図2 国内の主要な祭りの鑑賞経験】(N=8,739、MA、数値は%)
鑑賞経験が10%を超えている祭りは「さっぽろ雪まつり」、「仙台七夕まつり」、「祇園祭」の3つで、それ以外の祭りの多くは5%前後の鑑賞経験となっています。認知と鑑賞経験の数値の差をみると、国内の祭りはまだまだ鑑賞経験を増やす余地は十分にありそうです。次いで認知と鑑賞経験のギャップを図3でまとめてみました。
【図3 国内の主要な祭りの鑑賞経験/認知率の割合】(N=8,739、図1・2のデータをもとに作成)
鑑賞経験/認知の歩留まり率でみると、最も高い値となったのが「フラワーフェスティバル」(広島県広島市)でした。上位5つは認知率、鑑賞経験でも上位を占めているものばかりで「フラワーフェスティバル」を認知している方の参加率の高さが目立ちます。これは祭りの性格によるところが大きく、写真や絵画、生育など、多様な趣味の受け皿となっている“花”がテーマとなっている祭りのため、他の祭り以上にその内容から誘客につながっていることが推察されます。
今年は各地で“祭り”再開の動き
【図4 国内の主要な祭りに対する今後の参加意向】(N=8,739、MA、数値は%)
最後に主要な祭りに対する今後の参加意向をまとめました。最も参加意向が高かったのは「さっぽろ雪まつり」で約3割の方が参加意向を示し、高い人気となっています。以下、「祇園祭」、「仙台七夕まつり」、「阿波おどり」、「よさこい祭り」が続いていますが、他の項目と比較すると、参加意向は18の祭りに対して、あまり大きな差がみられない結果となりました。
日本の祭りは、地域の風土や文化を継承しながら、その土地、その土地の特性を活かして発展してきました。その独自性は地域を知るきっかけとなり、域外の人を呼び込む上で大きな役割を果たしています。しかし、人口減少や主催者側の高齢化などの課題も多く、今後の存続を危ぶむ声も聞かれます。コロナ禍で急ブレーキがかかり、この2年は国内の祭りを体験する機会が失われてしまいましたが今年は感染状況を見ながら、他地域からの参加を緩和する意向を示す祭りが増えてきました。豊かな地域資源の象徴である“祭り”が勢いを取り戻し、地域経済の活性化につながることを祈るばかりです。
調査名:都道府県に関する調査(2022年3月)
調査地域 :全国
調査対象者:男女20~69歳のT会員
有効回答数:8,739サンプル
調査期間 :2022年3月16日(水)~3月24日(木)
調査機関 :CCCマーケティング株式会社
※日本の性・年代別人口構成比でウエイトバックしたスコアを利用しています
【お問合せ先】
CCCマーケティング総合研究所
担当:杉浦・斎藤
cccmk-souken@ccc.co.jp