移住に関する生活者の思い
私たち、CCCマーケティング総合研究所(以下「CCCマーケティング総研」)は、『暮らす人と共に歩み、共に考えるシンクタンク』として生活者の意識を起点とした戦略設計に重点を置いています。更に、全国の視点で捉えるだけでなく、地域ごとの産業や未来にも目を向けていきたいと考えています。
21年の「住民基本台帳移動報告」によると、日本国内における市区町村間移動者数は524万7744人となり、前年比0.2%の減少となりました。都道府県別の転入・転出別の状況をみると、転入超過は拡大傾向にある埼玉県、神奈川県、千葉県、滋賀県の4県のほか、東京都、大阪府、福岡県、さらには前年の転出超過から転入超過に転換した茨城県、群馬県、山梨県の計10都府県となっています。一方、転出超過となっているのは37道県と、多くの自治体が転出超過に陥っています。現在、「過疎地域」に指定されている市町村の人口は約1,162万人で、全人口の約9%に過ぎませんが、対象となる自治体の数は全国1,718市町村のうち885市町村を数え、その割合は5割を超えています。このような過疎化の進展は、地域の経済を大きく後退させ、さらなる負の連鎖を引き起こしつつあります。もはや多くの自治体で大きな課題となっている過疎化に対して、何とか歯止めをかけようという動きが自治体の移住・定住促進に関する取り組みです。
CCCマーケティング総研では、「移住に関する意識調査」を2021年3月22日(月)~29日(月)にかけて、8,540人のT会員の皆様を対象に実施しました。働き方改革や、在宅ワークの推進など、コロナ禍による社会環境の変化により、「働く場所」・「居住する場所」への意識は変化してきていると言われます。移住に関する意識に変化は生じてきているのか、生活者の皆様の回答をもとにみていきたいと思います。
※今回は、移住を大都市圏から地域への居住移動と、地域から大都市圏への居住移動どちらも含む形で掲載しています。
移住は約6割が「関心あり」
移住への関心度を見てみると、全体の6割近くが関心ありと回答しています。そのうち、
「計画する予定あり」「近いうちに計画あり」「具体的な計画進行中」という層の合計は約3割を占めました。これらの合計値は男女とも20代が最も高くなっていて、60代が最も低い値となっており、移住意向は年齢による差異がややあるようです。
【図1】
移住につながる要因は仕事の変化・ライフステージの変化・健康
次に「移住計画中、または計画の可能性がある」と回答した方の移住の時期につながる『要因』についてみていきましょう。
図2は、各性・年代別に、回答割合が高い上位3つの項目に色付けをしています。
移住を検討するタイミングは、 “わからない”の回答を除くと、大きく3つの要因に分類できそうです。
要因1 :仕事の変化・リタイア
要因2 :ライフステージの変化~結婚・子どもの誕生、独立
要因3 :健康~親の健康・自身の健康
この結果からみると、ライフステージの変化や健康不安に対する行政サポートは移住を検討している層に対して有効なアプローチと言えそうです。
【図2】
人気は、大都市圏、北海道、沖縄
続いて、全国を8地方区分に分け、地方居住者毎に移住検討先として割合が多い都道府県を確認していきたいと思います。
各居住地域の上位5位を確認すると大都市(政令指定都市及び東京都特別区部)がある都道府県と沖縄県が順位こそ異なりますが、上位を占める結果となりました。
また、四国を除くすべての地方で、東北地方の宮城県、中国地方の広島県というように居住地域と同一地方にある大都市が所在している都道府県が上位5位までに入っており、居住エリアに近い大都市がイメージされやすいことがわかりました。
これら大都市を移住検討先とする傾向を理解するために移住先に望むものを見ていきたいと思います。
【図3】
現役層は「仕事」、リタイア層は「安心」を移住先に望む
図4は、「移住計画中、または計画の可能性がある」と回答した層の「移住先に望むもの」の回答を、性・年代別に表示し、構成比の高い上位3つの数字に色をつけています。
20~50代の現役層の移住検討者は、「希望する仕事がある」、「希望する給与水準の仕事がある」といった仕事・収入に関わる項目が男女ともに上位にきています。
また、「理想の住まいを得られる」は幅広い年齢層で支持を集める項目となっており、移住の大きな要因となり得ることがわかります。全体から見ると高い数字ではありませんが、年代別では相対的に30代の男女で「レジャー・娯楽が現在の居住地より楽しめる」が高くなっている点は注目されます。
仕事と理想的な住まい環境、さらにそれを実現するための移住に必要な費用の支援制度などがあれば、現役世代の移住はより具体的なものになると言えそうです。男女による回答差をみていくと、女性は「買い物・交通が現在の居住地より便利」が男性より高い値となっており、日常の生活を重視していることがうかがえます。
60代以上のリタイアを見据えた世代は、移住後の生活を快適に送れる、移住後の生活がイメージしやすい、医療や介護環境が現居住地よりもよいといった要素が高い数字になっており、「安心」が移住につながる重要要素と言えそうです。
【図4】
移住につながる3ステップ 「認知➡訪問➡交流」
最後に移住・多拠点居住のきっかけに「大いになり得る」と「まあなり得る」の回答が高い項目を確認していきましょう。
移住・多拠点移住の動機になるのは「その地域を訪問してスポーツ、趣味等の活動や飲食を行う」、次いで「その地域で働く」、さらに「地域のコミュニティとの交流やイベントやボランティアへの参加」の順となりました。移住に至るまでには、まずは地域を「認知」してもらい、「訪問」の機会をもたらすこと、そして地域の人との「交流」を通じて地域をより理解してもらうことが重要です。こうした地域との“出会い”ともいうべききっかけを入り口に移住・多拠点居住の具体的な検討が進んでいくため、移住促進を図りたい自治体は地域の個性を発信していくことがとても重要な取り組みの一つであることは言うまでもありません。
【図5】
個の地域発信が、未来の扉を開く
今回は、移住について生活者の視点がどこに置かれているのか、様々な質問からみていきました。結果、移住のタイミングや移住先に求めるモノの外枠が浮かび上がってきました。現役世代とリタイア世代では、移住先に求めるモノに違いがあるということは移住促進を図る自治体にとって留意すべきポイントと言えそうです。
足下の人口減と地域経済の縮小に悩む自治体の多くは、近年、インバウンドの増加に伴い、インバウンド客に向けた資源の強化に努めてきました。しかし、コロナ禍により環境は一変し、インバウンドによる経済活性化は期待できない状況に陥っています。地域経済的な観点からも関係人口の拡大、さらには移住・定住人口の拡大は自治体にとって重要な取り組みと言えます。働き方も変わり、地域の移住・定住促進にとって大きな障壁となってきた労働環境は、以前ほどのハードルではなくなりつつあります。とは言え、生活者にとって移住を考える際には働くことは重要な要素となっており、地域ならではの働き方、最低限のインフラなど、時代と地域特性を踏まえたサポートを行っていくことが必要です。
また、SNSなどを通じて個の交流が拡大している中で、行政はもちろん、その地域で働く人、住む人の地域に関する情報発信は、移住・定住につながるアクションとしてますます重要性が増しています。地域に住んでいるからこそ知っている地域の魅力は、他の自治体とは異なる誘引要素であり、地域への理解・共感を促す大事な情報です。誰もが取り組める地域に関連するSNS発信は、愛する地域の未来を創る次世代資源の一つとして存在感を増しています。
移住・定住促進を図っていくためには、今まで以上に開かれた柔軟な発想で取り組んでいくことが求められていますが、地域を創るプロセスから楽しめる共感者を募っていくことが未来をつくる一歩としてますます重要になっていきそうです。
調査名:都道府県に関する調査より 移住に関する意識調査
調査地域 :全国
調査対象者:20~69歳のT会員男女
サンプル数:8,540サンプル
調査期間 :2021年3月22日(月)~3月29日(月)
実査機関 :CCCマーケティング株式会社(Tアンケートによる実施)
※日本の性・年代別人口構成比でウエイトバックしたスコアを利用しています。
※数字は小数点第一位まで表示。データは小数点第二以下の数字も持っていることから合計値が合わない場合があります。
【お問合せ先】
CCCマーケティング総合研究所
担当:杉浦・斎藤
cccmk-souken@ccc.co.jp