西九州新幹線の地域経済への波及効果は?
CCCマーケティング総合研究所は、生活者の皆さまが暮らす「まち」の明るい未来創りに貢献したいという想いのもと「暮らす人と共に歩み、共に考えるシンクタンク」を目指しています。2022年度、CCCマーケティング総研は、九州・沖縄・山口の経済発展を支えるシンクタンク機関である公益財団法人九州経済調査協会さま(以下、九経調)と共に、地域経済のためのデータ活用について検討してまいりました。その一環として、2022年9月23日に開業した西九州新幹線の沿線駅、および、周辺自治体への波及効果について共同研究を進めております。本ページでは、CCCマーケティング総研にて調査、分析した速報結果を報告いたします。
九経調が行った西九州新幹線開通後の人流変化についての調査結果については、こちらから(※外部ページに遷移します)
公益財団法人九州経済調査協会調査結果
今回、CCCマーケティング総研では、CCCMKホールディングス株式会社が保有する、T会員(※1)の多種多様なTポイント提携先購買データ(※2)をもとに、西九州新幹線開通駅エリア(武雄温泉駅、嬉野温泉駅、新大村駅、諫早駅、長崎駅周辺エリア)への来訪者の変化について調べました。
■九州外からの来訪者がやや増加
まずは、西九州新幹線開通エリア全体について、来訪者がどのような地域から来訪しているのか、開通前後で変化があったのかを見てみました。【図表1】にあるように開通前後いずれにおいても、長崎県、佐賀県、福岡県からの来訪者が多いことが分かります。また、開通前後での構成比を比較すると、東京をはじめとした関東エリアからの来訪者の割合は+4.2pt増となっています。開通1ヶ月で、九州外からの利用者の割合がやや増加していることが分かります。
さらに九州内(沖縄県除く)での来訪者の変化も見ています(*【図表2】はダウンロード資料にて掲載)。いずれの県も顕著な変化ではありませんが、福岡県+1.2pt増、熊本県+0.5pt増、大分県、鹿児島県+0.4pt増と微増傾向が見られました。JR九州の他の新幹線や特急を乗り継いで来訪できるエリアで動きが見られる一方で、同じ九州でありながらアクセスのしにくさからか、宮崎県からの来訪者には変化が見られませんでした。
■自分なりのこだわりをもつ、旅行好きミドル層や「鉄道好き」が来訪
西九州新幹線開通エリア全体で見ると、開通後来訪者は開通前と比較して、男女ともに40代後半から60代のミドル層に伸びが見られます【図表3】。また開通後来訪者の趣味、関心事は、開通前来訪者よりも「国内旅行」「写真・映像」「お酒」好きの回答割合が高い結果となりました。旅行先で美しい風景や観光地を写真におさめ、お酒や食事を楽しむ、そんな旅行好き達の旅スタイルもうかがえます(*【図表4】はダウンロード資料にて掲載)。
次に開通後来訪者の興味、関心事をより深掘りするために、彼らが特徴的に購入している雑誌にどのような傾向があるのか、TSUTAYA、及び蔦屋書店での購買データを調べました。開通前利用者と比較して、特徴的に購入されている雑誌は、「るるぶ長崎 ‘23ハウステンボス・佐世保・雲仙」「まっぷる長崎・ハウステンボス・佐世保・五島列島」と、いわゆる王道の旅行雑誌でした。観光目的で来訪している人達であることが分かります。また「JR時刻表」や「鉄道ファン」「鉄道ジャーナル」などの乗り物関連の雑誌も挙がっており、(乗り鉄、撮り鉄ともいわれる)鉄道好き層も一定いるようです。さらに「こどもとおでかけ九州パパママWalker」や「kodomoe」「あそびと環境0・1・2歳」が多く購入されていることからも、子育てパパママ世代も多くいることが見えてきます(*【図表5】はダウンロード資料にて掲載)。
さらに、開通後来訪者の購買データのうち、面白い特徴を見せたのが、アルコール飲料のお買い物でした。前述した通り、彼らはお酒好きな人達ですが、お酒の中でも「エビスプレミアムメルツェン」「黒ラベルエクストラドラフト」など高価格帯で期間限定のビールや新商品アルコール飲料などの購入割合が高く、好きなものへのこだわりがあり、新しい商品は色々と試してみたい、そんな様子も見えてきます。(*【図表6】はダウンロード資料にて掲載)
このような購買傾向をもとにCCCMKホールディングス株式会社で生成する顧客DNA(※3)を見てみると、西九州新幹線エリア来訪者の傾向として高いのは「ライブ観戦好き」「休日浪費タイプ」「新しもの好き」などで、特に開通後来訪者に顕著に見られる傾向は「休日アクティブ派」でした。【図表7】
ここまでの分析結果から、旅好きで、新しいことを積極的に楽しむ人たち、そんな人物像が見えてきました。
■開通後に九州外からの来訪者拡大傾向が見られるのは、長崎駅、諫早駅
ここからは開通した5駅それぞれについての開通前後での利用者の変化を見ていきます。まず性年代の構成比変化ですが、いずれの駅も40代よりも上の年代の構成比が高くなっています。諌早駅では特に40-45歳男性、武雄温泉駅や嬉野温泉駅では女性60-64歳の利用構成比が高くなっていました(*【図表8】はダウンロード資料にて掲載)
また、来訪者の居住都道府県構成比を比較すると、5駅の中で最も九州外からの構成比が高くなったのは、長崎駅で関東エリアからの来訪者は+5.4ptでした。次いで、諫早駅が関東エリアからの来訪者+3.9ptとなっています。これらの2駅に比べると、嬉野温泉駅や新大村駅はエリア別利用者の変化が小さく、九州外からの流入が限定的となっているようです。開通駅により、九州外からの来訪者拡大の効果が見られる駅と、効果が限定的な駅とで明暗が分かれる兆しが見えてきています【図表9】。なお、諫早駅も利用状況を詳しく見ると、Jリーグ V・ファーレン長崎のホームゲーム時に来訪が伸びています。(詳細は九経調分析ページにて)。V・ファーレン長崎の本拠地は2024年に長崎市への移転が決まっており、今後の諫早駅における課題も見えつつあります。
■今後に向けて
今回は初動1ヶ月実績報告となりました。旅行好きのファミリー層や鉄道好きなど、新幹線開通のタイミングで動く利用者層の特徴が見えてきました。今後は、このような旅行好き層がどのくらいの期間で一段落を迎えるのか、またどのような利用者層が当該エリアを再訪するのかなど、継続して調査していく予定です。
また、1ヶ月実績であるものの、開通駅による明暗の兆しが見受けられました。来訪者の動きが限定的となっている嬉野温泉駅、新大村駅などは、西九州新幹線をフックとした新たな来訪者獲得施策などを今後、検討していく必要がありそうです。さらに西九州新幹線沿線ではない周辺自治体も、来訪を促進する施策の検討が求められるでしょう。
九州経済調査協会、および、CCCマーケティング総研では、引き続きデータを注視しつつ、課題解決に向けた取り組みを地域の皆さまと一緒に検討してまいります。
※1 T会員とは、Tカードをご利用いただいている会員で、年間約7,000万人の方にご利用いただいています。
※2 今回は、Tポイント提携先の利用データから、T会員がどのようなエリアを訪れているのかを抽出し、分析しました。また、該当駅周辺市区町村に居住している人は分析対象から除き、居住していない人を「来訪者」として定義しました。
※3 Tカードの利用履歴から機械学習で衣食住遊働などを中心に多数の項目をスコアリングしたデータです。
※CCCMKホールディングスでは、セキュリティ上厳重に管理された環境のもと、個人を特定できない状態でマーケティング分析を行っております。
※本コラムに記載された商品・サービス名は各社の商標または登録商標です。
※駅別の利用者データをダッシュボードでご覧になりたい方はこちらから(※外部ページ(Tableau public)に遷移します)
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